東京高等裁判所 昭和43年(ツ)99号 判決 1969年1月31日
上告人 塚田喜平太
右訴訟代理人弁護士 高屋市二郎
荒木淳
被上告人 医療法人社団同愛会病院
右代表者理事 中川義一
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 成智寿朗
中直二郎
主文
原判決を破毀する。
本件を東京地方裁判所に差戻す。
理由
原審裁判所は本件各土地については江戸川区長のなした特別区道の認定供用開始の公示があり特別区道と認められる以上本件各土地と密接な関係を有する被上告人等は本件各土地について所有者である上告人に対し通行を妨害すべき建物等の設置の禁止を求める権利がありと判断したことは判決文上明かであるところ原審裁判所の認定によると本件各土地は上告人の所有であることは当事者間に争いなく、又上告人の指摘するように昭和二十八年四月一日特別区道路線として認定され、供用開始の旨の公示がなされたが、当時江戸川区が本件各土地について所有権賃借権その他の権原を有していたことを明認するに足る証拠はなく、公図等によって見ると一見して道路と誤認される状態ではあったものの現実には通行可能の状態ではなかったこと(本件各土地が通路の形体をそなえ通行可能となったのは昭和三十年頃鳥海孝一―上告人の数代前の所有者―が本件各土地その他の附近の土地を埋立てた結果であること)は原審裁判所の認定するところであるから上告人の主張するとおり前記道路の認定及び供用開始の公示は当然無効と解するのが相当で本件各土地の所有者である上告人は本件各土地を特別区道として一般公衆の通行すべき法律上の義務はないものというべきである。右と見解を異にし特別区道であることを理由に上告人に対し隣接土地の居住者である被上告人等の本件各土地の通行の妨害禁止を命じた原判決はその点において法令の違背があるものというべく、右は判決に影響を及ぼすこと明かであり上告人の上告は理由がある。よって原判決を破毀し更に審理をなさしめるため民事訴訟法第四百七条第一項により本件を東京地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。
なお原判決は被上告人中島、河村の賃借地が袋地であり、囲繞地である本件各土地を通行する権利がある旨を付言しているが右被上告人等は第一審において通行地役権の設定行為存在の主張、囲繞地通行権存在の主張はいずれも撤回したもので(第一審記録第二五丁参照)第二審においてもその旨の主張はなさなかったもの(第二審記録第二六丁参照)であるから当事者の申立てない事項についての判断でありこの点でも違法なものと云うべきである。
(裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 石田哲一 加藤隆司)
<以下省略>